まだまだあったジャコウシリーズ。第3弾。
今回は「ジャコウアゲハ」(Google画像検索)のご紹介になります。
「虫なのに?」と思われるかも知れませんね。しかし昆虫も匂いを利用するものが多いですから、ジャコウの名を冠することに納得がいきます。
ただ、虫の名前にまで使われるジャコウのネームバリューのスゴさは伝わってきますね。
「いい匂いがする! じゃあこいつジャコウアゲハで!」ノリと勢いですね。
さてそんなジャコウアゲハですが、ジャコウとは関係なく昆虫の神秘を感じることができる数々の生態を持っている生き物なんですよ。ある意味では名前負けしてないと言えますね。ジャコウを差し引いても非常に面白い生き物なので。
そんなわけでジャコウアゲハについて見ていきましょー。
・「ジャコウアゲハ」はどんな匂いなの? オス・メスの特徴と分布。
ジャコウアゲハは、東アジアの広い範囲に生息しているアゲハチョウの仲間です。日本では秋田から沖縄まで広い範囲に生息し、食草であるウマノスズクサが生えているところに集まります。
分類は「チョウ目アゲハチョウ科ジャコウアゲハ属」。
名前の通り我々のよく知るアゲハチョウの仲間です。
オスは真っ黒な見た目がシックで美しいです。メスはいわゆるアゲハチョウのイメージにぴったりの黒縁にベージュ色といった色合いで、美人なチョウです。ステキなヴィジュアルが愛好家にも人気がありますねー。
しかし、名前にジャコウとついているように、匂いを出すチョウなんですねー。
オトナになったオスのジャコウアゲハは、
お腹から匂い成分の「フェニルアセトアルデヒド」を分泌します。
この「フェニルアセトアルデヒド」、ハチミツやチョコレートに例えられる甘い香りを発する物質で、食品や煙草の香料として利用されている心地よい香りです。
この点では「ジャコウウシ」「ジャコウネコ」に比べて本来のジャコウに近い匂いを出しているといえますね。
ジャコウアゲハはこの香りでメスとコミュニケーションを取っていると考えられています(決定的な情報は見つかりませんでしたが……)。
そして「フェニルアセトアルデヒド」は昆虫界ではポピュラーな物質で、多くのチョウ、ハチなどが分泌してコミュニケーションを取ります。
実は「森の香り」の一部にはフェニルアセトアルデヒドが含まれているのかも?
結論:ジャコウアゲハの香りは割りとジャコウ似。
・ジャコウアゲハの特徴的な食草。幼虫はたくましく生きているぞ。
ジャコウアゲハに限らず、チョウの仲間には「偏食家」が多いです。
モンシロチョウはキャベツなどのアブラナ科植物に卵を産み付けます。これは幼虫がアブラナ科の葉を食べるためです。
同じようにナミアゲハというチョウは柑橘類に産卵します。この2種にそれぞれ別の葉を与えても食べることはありません。
DNAに刻まれているんでしょうね。そういえば余談ですがカイコ(蚕。シルク吐くやつ)は桑の葉しか食べないんですよね。
ジャコウアゲハは、「ウマノスズクサ属」の植物に産卵します。
このウマノスズクサの仲間はアジアだけでなくロシアにまで分布があり、かつては生薬として使われていたのですが、
毒草です。
猛毒というわけでもないんですが、たくさん食べると腎臓が働かなくなってしまいます。こえー。
しかし、この毒がポイントなんです。
ジャコウアゲハは、この毒を摂取することで毒虫になるのです。
幼虫のころに溜め込んだウマノスズクサの毒は成虫になっても蓄積されており、捕食者に甚大なダメージを与えます。したたかに生きているのです。
ジャコウアゲハの毒は自然界で有名なのでしょう、クロアゲハ、オナガアゲハなどは姿をジャコウアゲハに似せることで捕食者をビビらせる、という戦略を持っています。これは「ベイツ擬態」と言って、驚異的な生き物に似ることで捕食者を退ける、というものですな。
この毒はなんと卵の表面にまで含まれており、徹頭徹尾「毒蝶」なんですねー。
・「ジャコウアゲハ」の蛹はちょっとコワイ。羽化までの期間はどのくらい?
さて、「アゲハ」のイメージを覆す禍々しさを持つジャコウアゲハですが、実は蛹の状態もなかなか禍々しいです。
ジャコウアゲハの蛹は黄色っぽい褐色で(Google画像検索)、
「着物の女性に似ている」ともいわれます(どこがだ?)。昔の人は想像力豊かすぎる……。
あ、でも成虫がいい香りがすることを鑑みると女性の香水のようなイメージからそう思われるのはわかりますね。
この蛹はなかなかタフで、この状態で越冬することができます。
ときには何ヶ月も蛹のままで春を待つとか。暖かい季節では半月程度で羽化するってのが確信犯ですよね。でも何ヶ月も蛹のままだったら羽化したときにガリガリに痩せてそうですけど大丈夫なんですかね?
そしてこの蛹は別名「於菊虫(おきくむし)」と呼ばれています。
お菊といえば怪談「皿屋敷」。1枚足りな~いってヤツですね。
「於菊虫」という別名は「皿屋敷」のお菊さんから取られているんです。
江戸時代、姫路の城下町に「後ろ手に縛られた女性のような蛹」が大量発生して「お菊さんの祟りじゃー」と話題になったのです。お菊神社って姫路にあるんですよねー。
ただ……。
……そうか? 本当にそう見えるか?
昔の人は想像力豊かすぎる。間違いない。