最近、「外来種」って言葉、よくききませんか?
ヒアリ、アライグマ、ヌートリアetc…
何が問題なんでしょうか?
※そもそもなんで保護するの?という話は下の方でしています。
帰化生物、外来種、移入種の違い
実は、これら3つの単語は、国によって・分野や機関によって定義が少しずつ異なるものの、どれも類似のものをさしています。
そのため、はっきりと3つの単語の意味を示すことはできません。
3つどれもが、意図するしないによらず人の手によってもたらされた動物のことを言います。
意図するしないというのは、意識的に動物を持ち込む他に、船の貨物にまぎれこんんで人間の知らないうち/飼っているものが逃げ出したりするアクシデント的に、という両方があるということです。
定義によっては人の手によってもたらされたほか、動物が自力で移動したものも含みます。
帰化生物に関しては、移入しただけでなく、移入先に定着したものをいいます。
近年は、「外来種」という言葉が一般的になっているようです。
国内外来種
日本国内でも、ある地域から別の地域に持ち込まれたものを、国内外来種と言います。
佐渡へのテンの移入、北海道へのヒキガエルの移入などがその例です。
外来種が問題を起こす例
外来種問題① 在来種の脅威となる
わかりやすいのが、在来種を食べてしまう、というものです。
フイリマングース
フイリマングースがハブ対策のため沖縄や奄美大島に放され、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギ、その他現地の小動物を捕食するという問題が起きています。(参考:アマミノクロウサギの記事)
もうひとつが、餌や生息地といった資源を奪い合うライバルとなる、というもの。
アライグマ
アライグマはかつて「あらいぐまラスカル」のブームでペットとして人気が出たものの、凶暴な性格から飼いきれずに遺棄してしまう人もいたようで、全国に定着してしまいました。アライグマはタヌキやキツネと競合しています。
両生類や爬虫類を捕食するという、在来種を食べてしまう問題もあり、さらに後述の人間の生活への被害も発生しています。アライグマは農作物への食害、魚や小動物も食べるため養魚・養鶏への被害が出ています。民家に入り込んで糞尿や騒音をだすことでも害があります。
草食動物も問題を起こしています。
ヤギ
小笠原諸島や魚釣島に放されたヤギ(外来種というより再野生化した家畜ですが)は、現地の植生に大きなダメージを与えます。ヤギは木に登ることもできるため、木の葉も食べ、樹木も枯らしてしまいます。
平和そうな動物ですが、こうして住処を奪われ、絶滅してしまった生物もいます。
ブラックバス/オオクチバス
釣りの対象魚として、そして外来種として有名な魚です。
北アメリカ原産ですが、1925年に持ち込まれて以来、ほぼ日本全国に分布するようになってしまいました。
その大きな口で小魚を捕食し、在来魚を激減させます。
テン(国内外来種)
国内外来種では、佐渡に移入されたテンはサドノウサギを捕食し減少させてしまいました。
ヒキガエル(国内外来種)
北海道に移入されたヒキガエルは、他のカエルと競合するとともに捕食する場合もあります。さらに最近の研究で、在来のカエルやサンショウウオがヒキガエルを捕食した際に、ヒキガエルの持つ毒で中毒死することも明らかになっています。
外来種問題② 在来種と交配し遺伝子攪乱を起こす
外来種が在来種と近縁で交雑が可能である場合、純粋な在来種がいなくなってしまう危険があります。
交雑で純粋な集団がいなくなるだけではなく、近縁ということは食べ物や棲家も被るライバルである場合が多いため、上記の「在来種の脅威」ともなります。見た目にあまり変わりがなかったとしても、遺伝的には乗っ取りに近い状況も起きうります。
アカゲザル・タイワンザル
アカゲザルやタイワンザルはニホンザルと交配可能で、ニホンザルの純粋性が失われつつあります。
チョウセンシマリス
北海道のエゾシマリスと、ペットから逃げ出したチョウセンシマリスからも雑種が生まれます。
ブタ
家畜のブタもイノシシとの交雑が可能です。家畜のブタは大陸のイノシシを起源とする動物です。
イワナ・ヤマメ・アマゴ等の渓流魚(国内外来種)
釣りをする方ならご存知かと思いますが、日本各地の漁協が放流事業を行っています。このときに、別の地域の魚を放流し、もといた個体群と交雑してしまう問題があります。
魚は河川ごとに分断されており、近隣の川でも遺伝的には大きく違う可能性があります。見た目にもはっきりと違いがわかる場合もあり、地域地域それぞれで見られる美しい姿をみることができなくなってしまいます。
環境保護と称した鯉などの放流(国内外来種)
自然の中に魚を放流することが良いことととらえられているのか、鯉がいなかった場所に鯉を放流したり、在来の鯉とは異なる鯉を放流したり、全く違うときにはなんとニシキゴイのようなものまでが放流の対象となったり…ということがあります。
鯉は世界の侵略的外来種ワースト100の中にも数えられている生物。
海外では、現地の生物の大きな脅威となっており、これは国内の鯉がいなかった水域でも同じことです。
鯉は60cm超に成長し、こうなると天敵はほぼいなくなります。
この巨体で雑食のため、水草から貝類・その他生物を食い荒らしてしまいます。川底の泥を吸い込んで餌をとる性質もあるため、安定した河床を必要とする生物は駆逐されます。
進んでブラックバスを放流しているのとあまり変わりありません。
子供が絡むイベントのこともあり、教育上の悪影響も懸念されます。
いまどき外来種をテーマにした子供向けの図鑑もでていますし、小学生くらいでも好きで生態のことを知っている子なら、よくないことだとすぐわかるはずです。子供に指摘されてこのようなイベントがなくなったら、なかなかおもしろいですね。これ以上の誤った放流事業が減ることと、子供に「馬鹿な大人だ」と思われる大人が減ることを祈っています。
※子供向けと侮るなかれ。学研などから各種子供向け図鑑が出ていますが、内容は大人が見てもしっかりしていて面白いです。字が大きくて振りがながあるので、いかにも子供むけ〜な感じはしますが…。部数が出るせいか、カラーのガードカバー大型本としては驚異的な安さ。大人向けの小さい図鑑の方が高いです…
外来種問題③ ヒトの生活や産業に被害を与える
ヒアリ
近年話題のヒアリ。刺されると火傷のような痛みが生じることが由来で、刺される害があるのは当然ですが、もうひとつ、ヒトに被害を与える性質があります。不思議なことに電気に引き寄せられるので、電気設備に侵入して漏電、火災を発生させることがあります。
在来生物の脅威ともなり、アメリカでは駆除・対策費が年間1兆円を超えるとも言われます。
ヌートリア
農業被害を与える動物はたくさんいますが、その1つがヌートリア(←過去にも書きました)。巨大なネズミです。毛皮用に飼育されたといわれますし、肉もおいしいらしいので、捕まえて利用してしまえば…と思うのですが、そう簡単な話でもないのでしょう。
結局、外来種の問題って自分と何の関係があるの?〜生物多様性について〜
別に動物が好きなわけじゃないし、アマミノクロウサギやが絶滅しても、トラやサイやゾウが絶滅しても、そこらへんにいるカラスやスズメが絶滅しても、自分には関係ない!どうでもいいよ!
って人、いると思います。
もっともといえばもっともかもしれません。普段の生活で、致命的に困る問題はなかなか見つからないですし、こういうことに関する説明もなかなか見かけません。
そんな人のために、どうしてこんなに必死になって動物を守ろうとしているのかを、解説します。
生態系のサービス
みなさんは、毎日空気を吸っていますね。
都会ならともかくも、田舎ならきれいな空気を、何もしなくても吸えるわけです。
この空気は人の手で作られたわけではありません。植物が二酸化炭素を酸素に変えてくれているおかげです。
畑に作物を植えておくと、手間はかかりますが、太陽が照り雨も降るので、半自動的に育っていきます。
海や川に行けば、いちから自分で育てたわけでもないのに、魚がいて、それを釣って食べることができます。
こういった、生態系から享受できる利益を「生態系のサービス」といいます。
当たり前すぎて、意識すらしていないかもしれません。
でも毎日タダで恩恵にあずかっているんですね。
環境破壊は、生態系のサービスを減少させる活動です。
地球温暖化が進めば、生態系のサービス全体が目減りすることになるでしょう。
環境の変化に対応しきれず、絶滅する生物も出てきます。
生物を絶滅させることは、生態系のサービスを構成するパズルのピースを抜き取っているようなもので、いまはまだ大きな影響がなくても、あるピースが抜けた日、突然崩れだすかもしれません。
※たった1つのピースでも、大きな影響が出ることがあります。
例えばかつて中国で、スズメは米を食べる害鳥だから駆除しよう、という動きがありました。しかし、稲につく虫も食べていたスズメが激減したことで、今度は害虫が大発生し、米の収穫も落ちてしまったという事例があります。
医薬品
生物が生産する物質が、薬として利用できることがわかった…という話、たまに聞きませんか?
生物が絶滅するということは、このような機会を喪失することです。
バイオミメティクス
バイオミメティクスとは、生物が持つ機能を人工的に模倣して利用する技術のことです。
・音を出さずに飛行できるフクロウの翼を真似して作ることで、騒音を減らした新幹線のパンタグラフ
・しっかりくっつくのに簡単にはがれるヤモリの指を模したテープ
・蚊の針をヒントに作った、痛くない注射針
などなど…
医薬品同様、生物の絶滅で、バイオミメティクスのヒントを失うことになります。
いかがでしたか?
人間は自然と切り離されたような気がしていたかもしれませんが、かなり生態系のお世話になっています。
環境保護は、最終的には人のため…
案外人類の利己的な理由あっての活動なのかもしれませんね。