民家の屋根や道路標識の隙間に巣を作る、身近な生き物、スズメ。
ひなが餌をねだる姿、冬にまん丸くなっている姿などはとても可愛らしいですね。
彼らは、実はとても恐ろしい生態を持っています。
いつも擬人化は嫌いだとか言っている筆者ですが、わかりやすさのために擬人化を交えて物語形式でご紹介していきます。
第1章 第2夫人
昨年の5月生まれのさつきは、この春立派な成鳥となって初めての営巣を経験しようとしていた。くちばしのまわりの黒い模様が目立つ夫には、結婚したときすでにやよいという妻がいたから、さつきは二番目の妻だった。
スズメの世界では一夫多妻となることがときおりあった。
彼女は「彼はとても人気だったし、私はそれでも良い」と思って結婚したのだった。
巣の場所は瓦屋根の隙間を選んだ。巣作りは、初めてだったせいか、さつきが不器用だったせいか、何箇所か枝や藁が飛び出していた。
やがて、生まれた卵は6個。夫と交代しながら、卵を温め続けた。
抱卵も2週間に近づくと、卵の中からひなの動く気配がしはじめた。
第2章 育ち盛りの子供たち
彼女の子供たちは、やよいの子の数日遅れで生まれた。
全部で5羽。卵は1つ孵らなかったものの、生まれた子供たちは皆元気だった。ひなをあたため、赤裸で目も開かないひなの小さな口に餌を押し込んでやるのが日課になった。
夫も餌を与えにやって来たが、やよいの巣にも餌を運ばねばならないためか、少し忙しそうにしていた。
第3章 飢え
子供たちは次第に大きくなっていく。
はじめは体温を保つ機能も未熟で、なかなか巣を離れられなかったさつきだったが、今ではずっと長く外出できるようになっていた。
それと引き換え、ひなたちは食べる量も日に日に増えていった。はじめは少しの餌で満足していたひなたちも、今ではそうはいかない。給餌は大変な重労働となっていった。
それにもかかわらず、夫が巣に来る次第に頻度が減っている。どうやらやよいの巣に優先的に餌を回しているらしい。
ひなに必要な餌が増えてくるのは、当然、やよいの巣でも同様である。
さつきの巣より少し早く孵ったひなたちは、両親がともに1日中餌を探し廻ってやっと満腹となる。
夫はさつきの巣で手一杯だった。
彼女は毎日懸命に餌を取りに行った。しかし、1日何十往復としても、足りない。
ひなは衰弱し始めた。
ひなにはダニが付き、大きくなり始めていた鳴き声は再び弱々しく小さくなっていった。
もはや、彼女が子供達を救う方法は1つしか残されていなかった。
終章 悲劇
ひなに餌を渡すとき以外は、親鳥はその餌を探すために外出している。やよいと夫が巣から出てくるまであまり時間はかからなかった。
向かいの家の植え込みの中でそのときを待っていた私は、まっすぐに彼らの巣に向かった。
狭い入り口をくぐった先、巣の奥には、太ってはいないがまずまず健康そうなひなが4羽。親が来たと思ったのだろう、一斉に口を開け、大きな声で餌をねだりはじめた。
私は一番近くにいた1羽の大きく開いたくちばしをとらえ、入り口まで戻り、くちばしを離した。残りの3羽も同じようにやった。
これで、彼は私の子供達に餌を運ぶことになるだろう…
落ちているスズメの赤裸の雛、それは事故ではないかもしれない
つまるところ、一夫多妻となったスズメのオスは第1夫人の巣で手一杯となり、自分の雛を餓死させまいとした第2夫人が第1夫人の子を手にかける。というのが身近なところで起きているドラマです。
スズメというと平和そうに見える小鳥ですが、猫や蛇・カラス・猛禽類などの天敵から自分自身や子供達を守るだけでなく、こんな戦いも繰り広げる生き物です。
スズメたちを見る目が少しでも変われば幸いです。