アマミノクロウサギが猫に捕食されている!?天敵ハブ・マングース、そして殺処分問題

奄美大島と徳之島だけに生息する、日本固有種アマミノクロウサギ。

ハブ退治に導入されたマングースに続き、猫が脅威となっている模様。

アマミノクロウサギ、猫、マングース、ハブ。分布など、それぞれのプロフィール。

まずは、アマミノクロウサギとその天敵はどんな動物なのか?を紐解いてみましょう。

アマミノクロウサギ

ウサギ目ウサギ科アマミノクロウサギ属
学名:Pentalagus furnessi

頭胴長:41-51cm
体重:1.3-2.7kg

分布:奄美大島・徳之島(どちらも鹿児島県だが九州より沖縄本島の方が近い)

名前の通り体が黒いウサギです。
耳が短く、原始的な特徴を持った種といわれ、学術的にも重要かつ興味深い位置にいる動物です。

斜面に1mほどの長さの穴を掘って巣穴にしたり、岩の隙間などを巣穴に利用します。子育て中の母親が巣を離れる際、天敵が入り込めないよう穴を塞ぐという興味深い生態を持ちます。

いわゆる「ウサギ」は鳴きませんが、アマミノクロウサギは甲高い声で鳴きます。

猫(イエネコ)

食肉目ネコ科ネコ属
学名:Felis silvestris catus

頭胴長:45-80cm※品種による
体重:3.6-7.5kg※品種による

分布:ほぼ全世界

いわゆる「ネコ」です。
多くの品種が生み出され、品種によって見た目や大きさ、性格も様々です。

原種はリビアヤマネコ(Felis silvestris lybica)で、イエネコとは亜種レベルの違いがあります。起源はあまりはっきりしていませんが、紀元前3,000年頃古代エジプトでイエネコとして家畜化されたといわれます。

リビアヤマネコは、アフリカ北部〜中近東〜カスピ海付近に生息する動物で、ネズミやモグラ、ウサギ、鳥類、爬虫類、両生類、魚を捕食します。

ネコは世界中でペットとして飼育され、大変人気のある動物ですが、放し飼いにした際の糞尿の害、よその家の鳥などのペットを襲ったり、家に入り込んでものを壊したりするという負の側面も持っています。

マングース(フイリマングース)

▲適当な画像が見つからず…ジャワマングースの方かもしれませんがおよそこんな生き物です。

食肉目マングース科エジプトマングース属
学名:Herpestes auropunctatus

※かつてはジャワマングース(Herpestes javanicus)の亜種とされていましたが、DNA解析により、現在は別種とされています。

頭胴長:30-40cm
体重:0.4-1kg

分布:ミャンマ〜インド、中東原産

イタチに似た動物です。

意外にも雑食性で、小型哺乳類・鳥類・昆虫のほか、果実も食べます。

1910年にハブ駆除のため沖縄に導入されましたが、ハブはあまり食べないばかりか、固有種を捕食するために問題となったのは有名です。
アマミノクロウサギのいる奄美大島にも、1979年頃移入されました。

特定外来生物として指定されています。

ハブ

有鱗目クサリヘビ科ハブ属
学名:Protobothrops flavoviridis

全長:100-200cm
体重:-3kg

分布:沖縄群島、奄美諸島

棲む島によって体の色や模様が異なり、かつては別種と考えられたほどです。

恐ろしい毒蛇というイメージがあり、実際そうなのですが、害獣であるネズミを捕食してくれるという益獣としての側面もあります。

血清が普及したため、死亡例は稀です。

ハブについてはこちらにも記載しています。

アマミノクロウサギは絶滅危惧種!その原因とは??

アマミノクロウサギは環境省のレッドリスト絶滅危惧ⅠB類に分類されている「絶滅危惧種」です。

絶滅危惧IB類とは、ものすごくざっくり言うと、
・近年個体数が大幅に減少している/減少が予想される
・生息面積が狭く、分断/減少している
・個体数が少ない
・データ解析で20年以内に絶滅の可能性がある
といった条件にあてはまる生き物のことです。詳しくは環境省HPをご覧ください。けっこう危ないラインなんだなーというのがわかるかと思います。

奄美大島の面積は1,231 km²、徳之島は104.9 km²(ちなみに日本の面積は378,000 km²、世界の陸地面積147,244,000km²)と、そもそも世界でたったこれだけの分布しかない生き物なので、MAXの個体数もそれほど多くはなかったと思います。

また分布が狭いということは、開発などで棲家を追われた際に逃げ場がない、外来種が導入されてしまった場合に全生息地に速やかに拡大しやすいということも意味します。

さて、現在彼らを脅かす要因は大きくこの3つ。
・生息地の減少と分断
・交通事故
・捕食

3つどれもが人間が要因です。

開発によってアマミノクロウサギが棲む森林が減少してしまえば、当然個体数が減ってしまいます。生息地がたとえ広くても分断されてそれぞれが小さくなってしまうと、その中で血が濃くなってしまう危険があります(血が濃くなり弱い個体が生まれる→その地域で絶滅 というルートも)。

生息地の中に道路ができれば、事故の危険があります。
確認されているものだけで、年間に奄美大島で30頭弱、徳之島で〜10頭ほどが命を落としているようです。ただしこれは”確認された”ものですので、ドライバーが気づかなかった・報告しなかった・その場で死なずに森で人知れず死んだ・動物に持ち去られた、などあるでしょうから、実際にはもっと多いと思われます。

奄美大島の個体数が2,000~4,800頭、徳之島に至っては200頭ほどしかいない(2003年時点)生物なので、十数頭としてもそこそこのインパクトがあるのがわかるかと思います。

人がアマミノクロウサギを食べるわけでもないし、捕食が人とどう関係あるの?と思われるかもしれませんが、これが大アリなのです。

捕食について今回は見ていきましょう。

アマミノクロウサギが捕食される…猫、マングース、ハブについて。

ヒトとアマミノクロウサギの捕食による減少、これに関係があるのは、ヒトによって持ち込まれた動物たちです。

一応、「わかっている」アマミノクロウサギの死亡原因で最も多いのが交通事故らしいのですが、年間でせいぜい数十頭。

アマミノクロウサギの寿命は飼育で約15年と言われるので、野生ではその約半分程度の7年と推定して…個体数は最低2,000頭…ということは、死亡原因がわかるのはごくごく一部ということになります。

不明個体は、
・老衰(野生化では稀でしょう)
・病死
・交通事故以外の事故
・捕食される
によって命を落としていることですね。

この中で、ヒトの影響でアマミノクロウサギが減少する理由となりそうなのは、病死と捕食です。

病気=外来生物によって同時に病原菌・ウイルス・寄生虫が持ち込まれ、在来種に脅威となる

ということですが、アマミノクロウサギに関しては、持ち込まれた病気の影響は大きくなさそうです。そうすると、捕食のインパクトが考えられるわけです。

今回紹介したアマミノクロウサギの天敵の中で、在来種はハブだけ。

ネコもマングースも、人間によって持ち込まれた動物です。

長い進化の過程で、アマミノクロウサギはハブに対する対応策をもっていますが、突然持ち込まれたネコやマングースに対する策は持ち合わせていません。

これは島に生息する他の固有種にとっても同じです。
また、悪いことに島にはネコやマングースにとっての強力な天敵がいないため、増えやすい環境にあると考えられます。

外来種マングースの捕獲と殺処分

マングースに関しては、1979年に奄美に移入されて21年後、2000年から環境省による本格的な防除が開始されています。

2005年に結成された「奄美マングースバスターズ」なる組織が2022年のマングース完全排除を目指して活動をしており、成果を上げています。

マングースは年々減少し、アマミノクロウサギをはじめとする固有種の個体数回復が確認されています。

猫(ノネコ)の捕獲と殺処分

ペットとして飼育されていたネコが遺棄されるなどして野生化してしまったものを、野良猫・ノネコと呼びます。

山に行くと家電や車のタイヤが遺棄されていることがありますが、こういったモノと違い、遺棄された生き物は食べ物や棲家を必要とし、繁殖もします。

ネコは小型の動物にとって強力な捕食者なので、ノネコが増えてしまうと、せっかく減ったマングースの再来のようになってしまうことになります。

マングースの捕殺がほとんど問題視されない一方で、ノネコの方は何故か一部で避難されている模様。ノネコを保護する動きもあるようです。

原因はネコがペットとして飼育される動物で、ファンが多いことや、日本でネコを食べる習慣がないなどの文化的な問題なようです。(これが感情移入しにくい植物だったらバッサリやれるんでしょうね…)

マングースはあまり馴染みのない人が多いですし、ちょっと怖い顔をしているのも手伝ってか、駆除に対しての避難はあまりありません。人の手で持ち込んでおいて、うまく働いてくれないから殺すなんて、本当にマングースには申し訳ないことをしています。しかし、持ち込んだ責任がある以上、駆除するのも人間の責任で、涙を飲んで実行しなければなりません。

ノネコも同じです。かわいいから飼ったけれど、飼いきれなくなったから捨てる、避妊せず野放しにして子供が生まれたが飼えないなど。人間の無責任を、動物がその命で償わなければならなくなってしまっています。(もちろん、保護されたノネコのなかには引き取り手がみつかるものもいますし、これがベストでしょう。)

動物は野で生きる方が幸せと考える方がいるようですが、そもそも飼育より、医療も何も受けられない野生の方が寿命ははるかに短いですし、改良が進んだ品種なら特にその死は早まると思われます。人間も野生が幸せ!と、アマゾンの奥地や富士の樹海にあなたが放されても幸せではないのでは。

奄美市では、これ以上ノネコが増えないように、ネコの飼育に関する条例を設定しています。

マングースにしろノネコにしろ、シカやイノシシのように皮革や肉に利用価値があれば申し訳なさも半減するかもしれません(駆除されたシカやイノシシでさえ焼却処分となってしまう場合が多いようですが)。利用価値があれば、というより、これから見つけていくべきなのかもしれません。

ノネコが負の広告塔になってはいけない

パンダのように多くの人が好む愛らしい動物を動物保護の広告塔にすると、パンダが住む環境を守られ、同じ地域に棲む名の知られていない動物も守られる、という効果があります。

アマミノクロウサギも、パンダに比べるとだいぶ弱いかもしれないですが、保護のシンボル的存在と言えます。

奄美には数多くの固有種が生息しています。
オオトラツグミ、オーストンオオアカゲラ、アマミヤマシギ、アマミトゲネズミ、ケナガネズミ、オットンガエル、アマミハナサキガエル、アマミイシカワガエル…etc

これらの多くがアマミノクロウサギ同様、マングースやノネコの脅威にさらされているわけですから、アマミノクロウサギを保護する活動は、固有種を守る活動にもなるわけですね。

一方で、かわいさ余ってノネコを保護する方向に動けば、生態系の破壊につながります。マングースを保護して奄美の環境を破壊しよう!と言っているのとあまり変わりありません。

書いていて、逆に「うなぎ撲滅キャンペーン」のように皮肉を言っているような気がしてきました。ノネコ保護は、実は風刺なのかもしれません。

ともかく、ネコのかわいさはこんな方向に使うべきではありません。

もっと詳しく知りたい!という方は、生態学の本(ゴリゴリの難しい本でなくても子供向けの図鑑的なものや外来生物の問題を扱ったもので良いと思います)を読んでみると良いでしょう。

入門にオススメな本がみつかったら、またこちらでご紹介します。